出産時の強い味方「公的補助」
出産時に保険証は使えるの?どんな保障が受けられるの?
いま妊娠をしています。
もうすぐ育児休業に入るんですが、出産時には保険証って使えるんでしょうか?
あと、公的な補助ってどんなものが受けられるんでしょうか?
出産時の公的保障は意外と知られていない
出産は多くの家庭が経験することですが、それに関するお金のことはよく知られていません。
特に、そこに健康保険がどのように関わってきているのかということは、知らない方がほとんどなのではないでしょうか。
健康保険は使えない
まず大原則として、
妊娠・出産には健康保険が使えない
という点があります。
理由は単純で、妊娠は病気ではないためです。
そのため、健康保険(保険証)による3割負担は使えず、全額の10割自己負担となっています。
なお、妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)等で入院をした場合には例外的に保険証が使えることとなっています。
補助制度がある
健康保険が使えないからと言って、公的補助が全く受けられないわけではありません。
市区町村や国がさまざまな補助制度を行っています。
そこで、このページでは、
- 妊婦健診の公費負担
- 出産育児一時金(出産一時金)
- 出産手当金
といった、出産時に受けられる公的な保障について紹介します。
出産前の検診費用は市区町村からもらえる!?
公費負担の妊婦健診
妊娠から出産までの間には、定期的な健康診査を受けることを国は推奨しています。
厚生労働省が目安とする、妊婦健診の受診回数は14回です。
【参考】厚生労働省『すこやかな妊娠と出産のために』
こうした妊婦検診ですが、お住いの市区町村から検診のための費用補助が受けられます。
補助が受けられる内容は市区町村によって異なる!?
費用補助が受けられるといっても、どんな検査項目でも補助が受けられる訳ではありません。
市区町村が指定した検査項目について、公費負担による補助が受けられます。
そのため、対象となる検査項目については市区町村により差があります。
また、検査費用に上限が設けられており、それを超えた場合には自己負担となる市区町村もあります。
補助方法は市区町村によってさまざま
実際にどのように補助が受けられるかは、市区町村によって異なります。
ただ、多いのは「受診券」が配られる方式です。
市区町村に妊娠届を提出し、母子手帳が配られる際、一緒に「受診券」が配られます。
その受診券を病院で使うことで、所定の妊婦健診が公費で受けられるという仕組みです。
もし、所定の検査以外を受ける場合には、自己負担となります。
川崎市の例
受診券以外には、補助券方式のものもあります。
たとえば、この方式をとっているのには神奈川県川崎市があります。
川崎市の場合、妊娠届を提出することで、
- 21,000円券×1回
- 8,000円券×3回
- 6,000円券×2回
- 4,000円券×8回
の14回分の補助券が交付されます。
検診の際には、上記の金額を公費負担として市が負担します。
そのため、それ以上に費用がかかった場合には自己負担となります。
【参考】川崎市『妊婦健康診査』
妊娠が分かったら早めに確認を
このように、妊婦健診には市区町村による公費の補助が受けられます。
しかし、その内容はお住いの市区町村により異なってきます。
そのため、妊娠が分かったら早めに確認しておきたいです。
出産時に健康保険から40万円以上もらえるって本当!?
出産育児一時金制度
出産関連の公的保障で最も大きいのが、健康保険から支払われる
出産育児一時金
です。
健康保険上の扶養親族が出産した場合には、「家族出産育児一時金」という名称になります。
(名前は変わりますが中身は一緒です。)
出産育児一時金とは
出産育児一時金は、厚生労働省が健康保険組合を通じて行っている給付事業です。
出産時に子供一人につき42万円が支給されます。
なお、産科医療補償制度という制度に加入していない病院で出産した場合には、給付額は40.4万円となります。
ただ、この制度への産科の加入率は99.9%となっています。
【出典】公益財団法人 日本医療機能評価機構『制度加入状況』
どのようにして支給されるの?
出産育児一時金の受け取り方法は主に2つあります。
- 被保険者(妊婦)が健康保険組合から受け取る場合
- 健康保険組合が直接病院に支払う
以上のどちらを利用するかは、被保険者が選ぶことができます。
それぞれの方法について説明します。
被保険者(妊婦)が健康保険組合から受け取る
健康保険組合から、被保険者(妊婦さん)が直接一時金を受け取る場合です。
必要な書類を添えて、健康保険組合に申請書を提出します。
必要となる添付書類は、健康保険組合により若干の違いがあります。
ただ、「直接支払制度を利用していない旨が記載された書類」の添付が必要となる場合がほとんどです。
健康保険組合が直接病院に支払う場合
健康保険組合が、被保険者ではなく病院に直接一時金を支払う場合です。
「直接支払制度」と呼ばれることが多いです。
この場合は、被保険者は出産費用から一時金額を引いた金額のみを支払うこととなります。
出産費用 − 42万円(一時金額) = 請求額(自己負担額)
直接支払制度を利用する場合には、健康保険組合に以下の書類を添付して申請を出す必要があります。
- 「直接支払制度」利用の有無に関する合意文書
- 「産科医療補償制度加入機関」のスタンプが押された出産費用明細書
「直接支払制度」利用の有無に関する合意文書
「直接支払制度」を利用するかどうかの合意について、病院と被保険者との間で交わす文書です。
平成21年10月1日以降の出産では、必ずこの文書を交わすこととなっています。
「産科医療補償制度加入機関」のスタンプが押された出産費用明細書
前述の、産科医療補償制度に加入している産科で出産をした場合、明細書に以下のスタンプが押印されます。
このスタンプが押された明細書の写しを添付します。
申請書の提出先は加入している健康保険組合により異なる
申請書と添付書類は健康保険組合に提出することとなりますが、加入している健康保険組合によって提出先が異なります。
より具体的に言えば、
- 会社員
- 公務員
- 自営業
と言った、職業形態により、申請書の提出先が異なってきます。
会社員で社会保険に加入している方
会社員で社会保険に加入している方の場合は、申請書と添付書類は会社の担当者に提出します。
総務課や庶務課等の、福利厚生担当者の方に確認してください。
女性の方で旦那さんの社会保険の扶養に入っている場合には、旦那さんが手続きを行います。
旦那さんが会社に「家族出産育児一時金申請書」を提出することで給付が受けられます。
なお、会社員の方でも、会社で社会保険に加入していない場合には提出先が異なります。
以下の「自営業などで国民健康保険に加入している方」をご参照ください。
公務員の方
公務員の方は、申請書と添付書類は職場の庶務担当者に提出します。
総務課人事係等の福利厚生担当の方に確認してください。
女性の方で、旦那さんの共済組合の扶養に入っている場合には、旦那さんが職場で手続きを行います。
これは、会社員の方の場合と同じです。
なお、直接「共済組合」に送付しないようご注意ください。
自営業などで国民健康保険に加入している方
国民健康保険に加入している方の場合は、申請書と添付書類をお住いの市区町村の役所に提出します。
提出先は市区町村により異なりますが、「市民課」や「住民課」であることが多いです。
分からない場合には、役所内の健康保険担当の窓口で聞けば、間違いありません。
出産前後98日はお給料代わりの出産手当金がもらえる!
出産のための無給期間を防ぐ「出産手当金」
国民健康保険以外の健康保険組合の被保険者が、出産のために仕事を休み、雇い主からお給料が支払われない場合には、健康保険組合から「出産手当金」が支給されます。
なお、国民健康保険以外の健康保険組合として、代表的なものでは以下のようなものがあります。
- 協会けんぽ
- 各種健康保険組合
- 共済組合
支給対象期間
出産手当金の支給対象期間は次のとおりです。
- 出産前42日
- 出産後56日
合計で98日分が、支給対象となります。
なお、出産予定日が遅れた場合には、遅れた分も支給対象となります。
もし、出産予定日が7日遅れた場合には、合計で105日が支給対象となります。
42日(主産前) + 7日(遅れ分) + 56日(出産後) = 105日
支給金額
支給される総額は、日額×日数で考えます。
そのため、1日当たり何円が支給されるのかが重要です。
その金額は、社会保険料を決めるために用いられる標準報酬日額の2/3の金額です。
標準報酬日額は、社会保険料の金額を決めるのに用いられる標準報酬月額に対応した1日当たりの金額です。
都道府県ごとに若干の差がありますが、以下のページで調べることができます。
協会けんぽ『平成27年度保険料額表』
東京都の例
以下は東京都の表の抜粋ですが、標準報酬日額の記載があります。
(オレンジの太線で囲った部分です。)
標準報酬日額の調べ方
自分が該当となる標準報酬日額を調べるには、まず標準報酬月額を知る必要があります。
標準報酬月額は、税引き前のお給料額を、標準報酬月額表の「報酬月額」に当てはめます。
そして、該当する行が、そのお給料に対応した「標準報酬月額」となります。
日額の場合は、標準報酬月額欄の隣に記載のある金額が該当となります。
もし、税引き前給与が306,000円であれば、報酬月額は「290,000〜310,000」に該当します。
それにより、標準報酬月額は22等級の300,000円と分かり、それに対応する標準報酬日額は10,000円となります。
出産手当金額は、標準報酬日額の2/3となるため、1日当たりの出産手当金額は次のように求めます。
10,000円 × 2/3 = 6,667円(端数四捨五入)
このように、標準報酬日額が10,000円の場合、出産手当金額は6,667円となります。
一部お給料が出ている場合の手当額
一部お給料が出ている場合でも、もしその金額が出産手当金額よりも少ない場合には、差額が支給されます。
先程の例で言えば、もし会社から5,000円が支給されている場合には、出産手当金との差額の1,667円が支給されます。
妊娠をしたら出産前に将来の教育資金のことも考えておきたい
早めの行動が大切
以上が、妊娠や出産時に受けられる公的な補助制度です。
市区町村に申請をしたり、健康保険組合に申請をしたりと制度により申請先が異なります。
また、お住まいの地域や加入団体によっても制度の内容が変わってきます。
そのため、自分が受けられる補助がどのようなものであるかを知っておくことはとても大切です。
妊娠時には会社の担当者にも一声かけて
妊娠が分かったら、会社等の福利厚生担当者に一声かけておくと良いです。
というのも、「出産一時金」は、会社経由で手続きをする必要があるためです。
また、会社によっては、内規や互助団体等から祝い金が出る場合があります。
そのため、まずは福利厚生担当者に一言入れておきましょう。
(私自身、会社の福利厚生を担当していますが、事前に教えておいてもらえるととても助かります。)
出産時には将来の教育資金のことも考えておきたい
出産時にあわせて考えたいものの1つが、学資保険です。
子供の将来のための教育資金の積み立て等を行います。
学資保険は、子供が小さいうちに早めに加入した方が、将来戻ってくるお金が増えることになります。
そのため、子供が生まれてから加入を検討する人が多いようです。
出産後の学資保険の検討は難しい?
ただ、実際に知り合いのファイナンシャル・プランナー(FP)さんに聞いてみたところ、子供が生まれてからの学資保険の検討はなかなか大変なようです。
というのも、加入するまでには、最適なものを見つけるために、FPさんに数回相談する必要があります。
しかし、子供が生まれてしばらくは、特にお母さんが忙しく、相談が途中で終了してしまうことが多いそうです。
相談が途中で終了してしまえば、もちろん学資保険には入らずに終わってしまいます。
もし、その後落ち着いてきてから学資保険に入ろうとしても、生まれてすぐに入るときよりも、積立金の戻り率が落ちてしまっているのです。
学資保険には出産前から加入できる
以上のようにならないためにおすすめなのが、子供が生まれる前に学資保険の検討を始めることです。
あまり知られていませんが、学資保険は、子供が生まれる前から加入することができます。
多くの学資保険で、出産予定日の140日前から加入することが可能です。
子供が生まれる前に加入すると、学資保険の戻り率は最大となります。
学資保険の検討は計画的に
出産時の公的保障をはじめ、教育資金積み立てのための学資保険等、出産時に考えたいことは多いです。
一度に考えるのは大変ですが、早め早めに計画的に考えておけば安心です。
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