介護サービスの費用負担が大きい場合に一部が戻る?
毎月の介護サービスの利用負担は所得に応じて上限がある
介護サービスを利用した際、市区町村の公的介護保険を利用することで、一定額の公的補助が受けられます。
補助を受けるためには市区町村によって介護が必要な状態と認定される必要があり、認定を受けると利用料の9割(所得に応じて8割)が支給されます。
そのため、利用者は1割または2割の負担で介護サービスを利用することができます。
ただし、認定された要支援及び要介護区分に応じて、1ヶ月の支給上限額が決まっており、上限額を超えた分については全額自己負担となります。
介護保険の区分別支給上限額
要介護状態区分 | 1ヶ月の給付上限 |
---|---|
要支援1 | 50,030円 |
要支援2 | 104,730円 |
要介護1 | 166,920円 |
要介護2 | 196,160円 |
要介護3 | 269,310円 |
要介護4 | 308,060円 |
要介護5 | 360,650円 |
自己負担額が一定額を超えると超えた分の金額が戻る
以上のとおり公的介護保険では、次の2つの自己負担が生じます。
- 1割または2割の自己負担
- 支給上限を超えた分の自己負担
こうした自己負担額は、支給限度額が決められているため、介護サービスを利用すればするほど増えてしまう可能性があります。
そうした事態を緩和するために、自己負担が一定の基準を超えた場合には、その超えた分が健康保険組合から返還される制度が設けられています。
これは高額介護サービス費という制度です。
この制度により、介護保険で高額な自己負担が生じた際にその軽減を受けることができます。
ただ、制度の対象となる自己負担の基準額については所得区分による基準が設けられています。
高額介護サービス費の自己負担区分
高額介護サービス費制度では、次のとおり所得により1か月の自己負担額の上限が設定されています。
所定の条件で自己負担額を算出し、1か月あたり基準額を超えた場合には、超えた分が返還される仕組みとなっています。
所得区分による自己負担上限額
所得区分 | 世帯上限額 | 個人上限額 | |
---|---|---|---|
第1段階 | 生活保護受給者 | 15,000円 | 15,000円 |
第2段階 | 世帯全員が住民税非課税で、介護保険利用者本人の課税年金収入額と合計所得金額の合計が80万円以下 | 24,600円 | 15,000円 |
世帯全員が住民税非課税で、本人が老齢年金受給者 | 24,600円 | 15,000円 | |
第3段階 | 世帯全員が住民税非課税で、介護保険利用者本人の課税年金収入額と合計所得金額の合計が80万円を超える | 24,600円 | 24,600円 |
第4段階 | 住民税課税世帯 | 37,200円 | 37,200円 |
第5段階 | 現役並み所得相当 | 44,000円 | 44,000円 |
「世帯上限額」と「個人上限額」の違い
表中の「世帯上限額」と「個人上限額」の違いは次のとおりです。
やや複雑な仕組みとなっています。
まず前提として、どの所得区分でも、同一世帯内に介護サービス利用者が複数人いる場合には、全員分を合算して申請します。
申請を行った後、区分に応じて次のとおり自己負担上限を超えていた分が個人に返還されます。
(申請は世帯単位ですが、返還は個人単位です。)
「世帯上限額」と「個人上限額」が同額であるものは、自己負担額の上限を世帯内各個人の介護サービス利用額で案分して、按分後の上限額を超えた金額を個人に返還します。
対して「世帯上限額」と「個人上限額」が同額でないものは、自己負担上限額を個人の介護サービス負担額で案分するところまでは「世帯上限額」と「個人上限額」が同額であるものと同じです。
ただ、按分した後、個人の自己負担額が15,000円を超えているようなら、その超えている分も支給されます。
現役並み所得相当とは?
自己負担額が最も高額となるのが「現役並み所得相当」の場合です。
この基準は次のとおりとなっています。
同一世帯内に課税所得145万円以上 の65歳以上の方がいる
ただし、次の条件にも該当する場合には、申請をすることで自己負担上限額を44,000円から37,200円に引き下げることができます。
(自動では引き下げられず、自己申告が必要となるため注意が必要です。)
- 同一世帯内に 65 歳以上の方が1人しかおらず、その方の収入が383万円未満
- 同一世帯内に 65 歳以上の方が2人以上いて、それらの方の収入の合計額が520万円未満
「課税所得」と「収入」の違い
ここで気を付けたいのが「課税所得」と「収入」の違いです。
まず「収入」とは、いわゆる税引前の金額を指します。
社会保険料や税金を差し引く前の金額です。
対して「課税所得」とは、収入から次のような経費を引いた後の金額を指します。
- 社会保険料控除
- 医療費控除
- 給与所得控除
- その他地方税法上の控除
現役並み所得相当の方は、基準を考える際に2つの指標があるため間違えないよう注意が必要です。
受けるサービスによって異なる対象の可否
一言で介護サービス利用料といっても、受けるサービスによってさまざまなものがあります。
そのため、高額介護サービス費の対象になるものとならないものが分かれます。
支給対象となる介護サービス利用料
まずは、支給対象となる介護サービス利用料です。
- 在宅介護(在宅支援)サービス費の利用者負担分
- 特例在宅介護(特例在宅支援)サービス費の利用者負担分
- 施設介護サービス費(特例施設介護サービス費を含む)の利用者負担分(ただし居住費・食費を除く)
介護サービスの対価として支払う費用の自己負担分が対象となります。
支給対象とならない介護サービス利用料
続いて、支給対象とならないものです。
- 福祉用具の購入費
- 住宅改修費の利用者負担分
- 施設での介護保険給付以外のサービスの利用者負担(居住費・食費等)
介護サービスそのものではなく、サービスを受けるための用具の購入費や、居住費や食費と言った生活費は対象となります。
申請書類は自動的に送られてくる
続いては、高額介護サービス費の基準に合致した場合の申請方法です。
申請に当たっては、自分から役所に手続きをしに行く必要はありません。
介護施設などでサービス利用料の自己負担分を支払い、それが基準額を超えた場合には、役所側から自動的に申請書類が送られてきます。
(送られてくる時期は自治体によって異なりますが、3か月後が目安です。)
申請書に必要書類を添えて返信すると、その書類をもって返還額の口座登録が行われ、その口座に返還額が支払われます。
そして、2回目以降該当した際には、特に申請書を提出する必要なく、自動的に登録口座に返還が行われます。
このように、申請に当たっては利用者の手間が少なくなっています。
高額介護サービス費制度は、利用者の手間が少なく利用できる制度です。
ただ、その存在を知っているのと知らないのとでは、実際にサービスを利用する際の判断に違いが出ます。
そのため、介護サービスを利用する本人や、その家族の方にはぜひ知っておいてほしい制度です。
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