ひとり親世帯の子供のための「児童扶養手当」
児童手当とは異なる「児童扶養手当」
子育て世帯への公的保障としては、自治体から給付される「児童手当」があります。
しかし、それ以外にも子育て世帯のための公的保障があります。
それは
児童扶養手当
です。
児童手当とは異なる!
児童扶養手当は、児童手当とは異なり、ほぼどの家庭でも受け取ることができるわけではありません。
児童扶養手当の
- 受給対象者
- 受給額
- 受給方法
等について、分かりやすく紹介します。
児童扶養手当はどんな人が受給することができる?
児童扶養手当が支給されるのは「ひとり親世帯」
児童手当が支給される条件を一言でいうと「ひとり親世帯」です。
死別や離婚等によって、父子家庭または母子家庭等になった場合に、親等の所得額に応じて手当が支給されます。
とはいえ、支給要件はより厳密に細かく決められています。
単純に「ひとり親世帯」だけではなく、親以外が父母に代わって児童を養育している場合にも、手当の支給対象となる場合があります。
より正確な支給要件は次のようになっています。
児童扶養手当の支給要件
次の3つの要件をすべて満たす場合に、児童扶養手当の支給対象となります。
- 日本国内に住所がある
- 児童の要件に該当する児童※
- 上記児童を監護する父、母または父母に代わって児童を養育している人
※児童:18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある者または20歳未満で政令の定める程度の障害の状態にある者
児童の要件
上記2の「児童の要件」としては、次のいずれかに該当する児童となります。
- 父母が婚姻を解消(事実上の婚姻関係を含む)した児童(父または母の離婚)
- 父又は母が死亡した児童(父または母の死亡)
- 父又は母が政令に定める程度の障害の状態にある児童(父または母の障害)
- 父又は母の生死が明らかでない児童(父または母の生死不明)
- 父又は母から一年以上同居せずに監護されていない児童(父または母の遺棄)
- 父又は母が裁判所からのDV保護命令を受けた児童(父または母のDV)
- 父又は母が一年以上拘禁されている児童(父または母の拘禁)
- 母が婚姻しないで生まれた児童(母の未婚)
- 父・母とも不明である児童
なお、5の「父又は母から一年以上同居せずに監護されていない児童」とは、「父又は母が児童と同居しないで扶養義務及び監護義務を全く放棄している状態が1年以上にわたって継続している場合」を指します。
父子家庭への給付
現在の支給要件は「父母が」となっており、父子家庭であっても児童扶養手当が支給されます。
しかし、平成22年7月までは支給対象は母子家庭のみとなっており、父子家庭の場合には受給することができませんでした。
平成22年8月以降は、父子家庭でも受給することができるため、以前より支給対象が拡大しています。
国籍要件はない
児童扶養手当は児童扶養手当法を根拠として支給されていますが、この法律の条文には国籍の要件は出てきません。
そのため、上記3つの要件をすべて満たす場合には、日本国籍を持たない外国人の方であっても児童扶養手当を受給することができます。
支給を受けられない場合
次のいずれかに該当する場合には、児童扶養手当の支給を受けることができません。
支給開始後にいずれかに該当するようになった場合には、支給が停止されます。
- 児童または父、母または養育者が日本国内に住所を有しないとき
- 児童が福祉施設等に入所しているとき
- 児童が里親に預けられたとき
- 父または母が再婚(事実上の婚姻関係を含む)し、児童がその配偶者に養育されているとき
支給日は市区町村ごとに若干異なる
児童扶養手当が支給される月は、全ての市区町村で共通となっています。
4か月分まとめて年に3回振り込まれます。
- 8・9・10・11月分:12月支給
- 12・1・2・3月分:4月支給
- 4・5・6・7月分;8月支給
支給日は、各市区町村ごとに異なります。
ただ、おおむね10日前後であることが多いです。
児童扶養手当の支給額はいくら?
児童扶養手当は「児童の人数」と「所得額」に応じて金額が変わる
続いては、児童扶養手当の支給額です。
児童扶養手当は、支給額が一律いくらとは決まっていません。
養育者の所得額を基準にして
- 全部支給
- 一部支給
に分けられており、更に所得額に応じて一部支給額が変わります。
なお、児童扶養手当は物価変動等に合わせて毎年支給額が変わります。
平成28年4月からの支給額は次のようになっています。
児童扶養手当の支給額
扶養する児童の人数 | 全部支給の支給額 | 一部支給の支給額 |
---|---|---|
児童が1人 | 月42,330円 | 月42,320円〜9,990円 |
児童が2人 | 月47,330円 | 月47,320円〜14,990円 |
児童が3人以上 | 以降、児童が1人増えるにつき月3,000円加算 |
一部支給の場合の支給額は、所得額に応じて10円単位で決定されます。
児童扶養手当の所得制限
先述のとおり、児童扶養手当は世帯の所得額に応じて支給額が決まります。
その基準となる所得額については、扶養する児童の人数により次のとおりとなっています。
なお、所得については、当該年度の前年度分の所得額で計算します。
所得制限表
扶養親族等の人数(16歳未満の児童も含む) | 受給資格者 | 受給資格者の配偶者・扶養義務者 | ||
---|---|---|---|---|
全部支給 | 一部支給 | 孤児等の養育者 (全部支給) |
||
0人 | 190,000円未満 | 1,920,000円未満 | 2,360,000円未満 | 2,360,000円未満 |
1人 | 570,000円未満 | 2,300,000円未満 | 2,740,000円未満 | 2,740,000円未満 |
2人 | 950,000円未満 | 2,680,000円未満 | 3,120,000円未満 | 3,120,000円未満 |
3人 | 1,330,000円未満 | 3,060,,000円未満 | 3,500,,000円未満 | 3,500,,000円未満 |
4人 | 1,710,000円未満 | 3,440,,000円未満 | 3,880,,000円未満 | 3,880,,000円未満 |
5人以上 | 児童が一人増えるにつき380,000円加算 |
所得制限表の見方
こちらの表は見方がやや分かりづらいので説明します。
次のような世帯の場合で考えます。
- 母:所得900,000円
- 子:所得0円(母が扶養者)
- 祖父:所得500,000円(母が扶養者)
この場合、母が2人扶養しているため、上記の表の2人の行を見ます。
すると、所得額が950,000円未満となるため、児童扶養手当を全額受給することができます。
この場合に、もし母の所得が950,000円を超え2,680,000円未満の場合には、手当が一部支給されます。
また、母の所得が制限額以下であっても、祖父の所得(受給資格者の扶養義務者)の所得が3,120,000円以上であれば、児童扶養手当は全く受けられないこととなります。
(祖父が年金生活者であれば該当しない可能性が高いですが、現役で働いている場合には該当する可能性があります。)
なお、「孤児等の養育者」については、所得限度額未満であれば手当が全額支給されます。
(一部支給と言う考え方がありません。)
児童扶養手当での「所得」の考え方
続いては、児童扶養手当での「所得」の考え方です。
所得とは、収入からさまざまな金額を差し引いた後の金額のことを言うため、単純に手元に入ってきたお金のことではありません。
児童扶養手当の基準となる所得とは、次の計算式によって求めます。
所得の計算式
所得 = 年間収入 − 必要経費(給与所得控除等) + 養育費の8割 − 80,000円(一律) − 以下の控除表の諸控除
この計算式でのポイントは、養育費の扱いです。
離婚後に、元配偶者から養育費を受け取っている場合には、その金額の8割を所得として加えます。
また、一律の80,000円は社会保険料相当額と位置付けられており、この金額は社会保険料の過多に関係なく全員が控除します。
この、年間収入や控除額と所得との関係を図にしてみると次のようになります。
年間収入や控除額、所得との関係
諸控除の控除額表
上記の所得額を算出する際の諸控除については、以下の控除額となります。
なお、控除が適用できるのは、道府県民税において控除を受けている場合となります。
控除の種類 | 父、母または養育者 | 孤児等の養育者 | 受給資格者の配偶者・扶養義務者 |
---|---|---|---|
障害者控除 | 270,000円 | ||
特別障害者控除 | 400,000円 | ||
勤労学生控除 | 270,000円 | ||
寡婦(夫)控除 | 270,000円 (養育者のみ) |
270,000円 | |
特別寡婦控除控除 | 400,000円 (養育者のみ) |
400,000円 | |
老人扶養控除※ | 100,000円 | 60,000円 | |
老人控除対象配偶者 | 100,000円 | 無し | |
特定扶養親族又は控除対象扶養親族 | 150,000円 | 無し | |
雑損控除 | 控除相当額 | ||
医療費控除 | |||
小規模企業共済等掛金控除 | |||
配偶者特別控除 |
※扶養親族が当該老人扶養控除対象者のみの場合は、1人目は控除不可
実際に計算してみよう
ここまで、所得の計算式を載せてきましたが、こちらもやや分かりづらいと思うので実際に計算してみます。
計算に際しては以下の条件で行います。
所得条件
- 年間収入:年間1,800,000円(給与収入)
- 受取養育費:年間600,000円
- 扶養親族:子、祖父(75歳実父)
以上の場合、先程の条件に当てはめると控除または加算される金額は次のようになります。
- 給与所得控除:720,000円控除
- 養育費:480,000円加算
- 老人扶養控除100,000円控除
【参考】国税庁『給与所得控除』
以上から所得額を計算してみると次のようになります。
所得 = 1,800,000円(年間収入) − 720,000円(給与所得控除) + 480,000円 (養育費の8割) − 80,000円 − 100,000円(老人扶養控除)
= 1,380,000円(所得)
上記の例の場合、所得額は1,380,000円と言うことになります。
今回の例では、扶養親族が2人いますので、所得限度額表に当てはめると、児童扶養控除が一部支給されることが分かります。
公的年金をもらっていても支給されるようになった!
公的年金との併給
児童扶養手当は、事前は公的年金を受け取っている場合には支給されませんでした。
しかし、平成26年12月から、公的年金との併給が認められるようになりました。
認められたのは差額分の支給
とはいえ、公的年金と児童扶養手当の両方を受け取ることができるわけではありません。
年金額と児童扶養手当を比べた際、年金額の方が少ない場合に、児童扶養手当との差額が支給されます。
すなわち、最大支給額は児童扶養手当の金額までと言うことになります。
これを図で見てみると次のようになります。
児童扶養手当と公的年金の併給
対象となる年金とは?
公的年金との併給を考える場合に対象となる公的年金にはいくつかの種類があります。
対象となる公的年金は次のとおりです。
- 遺族年金
- 障害年金
- 老齢年金
- 労災年金
- 労働基準法による遺族補償
ご自身が受給されている年金が、児童扶養手当との併給の対象になるか分からない場合には、お住いの市区町村に相談すれば教えてもらうことができます。
毎年1回、現況届の提出を忘れずに!
現況届を出し忘れると手当が受けられなくなることも…
ここまでが、児童扶養手当の内容についてでした。
最大で、42,000円程度の手当を受け取ることができる、児童のための大切な制度となっています。
この制度の受給手続きは、お住いの市区町村で行う必要があります。
そして、受給後に忘れずに行わなければいけないことがあります。
それは、年に一度の現況届の提出です。
現況届とは?
現況届とは、毎年8月1日から8月31日までの間に市区町村に提出する届出書です。
この届け出に基づき、
- 所得状況
- 扶養状況
等を市区町村審査して、そこから1年間の手当の支給が決定されます。
この現況届は、2年間未提出となると手当の受給資格が無くなります。
また、最悪の場合には、再度の受給ができなくなる場合があります。
そうならないためにも、現況届は提出期限内に忘れずに市区町村に届け出ることが大切です。
子供の将来のために教育資金の積み立ても忘れずに
もし、将来の子供の進学を考えるのであれば、早めに教育資金の積み立てを開始しておくことも大切です。
積み立て方法には様々なものがあり、
- 銀行預金
- 学資保険
- タンス預金
と言ったものが考えられます。
この中で、最もおすすめなのは学資保険を用いた教育資金の積み立てです。
なぜ学資保険なのか?
学資保険がおすすめなのには、もちろん理由があります。
それは、親が万一亡くなった場合でも、満期に受け取る金額を全額受けられる保障が付くためです。
銀行預金であれば、親が亡くなった場合に受け取ることができる預金額は、その時点までに貯めたお金のみとなります。
しかし、親の死亡時の保障が付いた学資保険であれば、加入時に設定した満期時の積立額を将来受け取ることができます。
そのため、自分に万一のことがあったとしても、子供の将来の教育資金が確保できることになります。
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